日刊イカムク

主に、陶芸、異国の料理、奇妙な映画、DIY(勉強中)、日常について書きます。

木目がしゃべりかけてくる【こどものころ】

寝つきの悪い子どもだった。

 

小さい頃住んでいた家は、もともとアパートだったのを少し改造したものだった。

もちろんぼろっぼろだったし、今はもう無い。

 

古い木造家屋特有の話だけれど、夏はゴキブリが出るのなんて毎日だったし、冬は冬でネズミの運動会が屋根裏で繰り広げられていた。

今考えるとなんかすごい。

廊下は軋んで歩くと沈むし、天井なんて雨漏りするからスーパーのビニール袋で補修してあった。壁は紙粘土で補強、木戸は開けようとするとトゲが刺さるくらいの荒くれ者。

 

当時は嫌で嫌で仕方なかった。

 

遊びにきた友達なんて、「〇ちゃんち、お化け屋敷みたいだから、トイレ開けて入るね」と言って、トイレのドアを開けっ放しにして用を足す始末。

もちろん、トイレからいつ出てくるやもしれぬ魔物から友達を護衛するために、私はいつもトイレの外で背を向けて立ち待っていた。

 

そんな家に住んでいると、夜はやっぱり怖い時がある。テレビ番組で怖い話をやっていた時なんか、やっぱり怖い。

 

夜はいつも豆電球にして、母を真ん中にした私と姉の川の字で寝ているのだが、みんなが寝た後に一人だけぱっと目が覚めてしまう時があった。寝つきも悪く、12時を回ってもずっと眠れないこともあった。

 

眠れないといつも天井を見ていた。

そうすればいつの間にか寝付けるだろうと、無意識のうちに考えていたのかもしれない。

天井は木の板で、木目が独特の模様をしていた。

次第に、天井の木目が狡猾な猿のように見えてきて、なんとなく目を天井に向けざる得なかった。その猿と目が合うと、目を離すことができなかった。

嫌な顔だった。

人間の百八つの嫌な部分が集約されていて、日に日にそれらが憎悪を増して、見てくれ見てくれと言わんばかりの、見世物にされたみたいな、顔。

 

ずっと見ているといつのまにか寝てしまうので、夢に落ちるおまじないでもあった、顔。

 

 

大人になった今は、都内のおそらくリフォームされたばかりの白い部屋に住んでいる。

ゴキブリもネズミもいないし、床も軋まない。

もちろん猿の顔の木目なんてなくて、合板に化粧板が貼られた人工的な木目が施された造りになっている。

 

大人になった今でもよく眠れなくなるが、天井を見上げてもあの猿はいないし、猿のおまじないもないもんで、結局夜通し眠れなかったりする。

 

あの猿はどこに行ってしまったのか。

きっと狡猾な猿だから、誰かの家の天井で邪悪を深めているのだろう。

 

 

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おまけ:

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今住んでいる家の家具。

木目があったと思ったら、

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鴨だった。

かわいいと思いませんか。